中小企業経営強化税制のB類型(収益力強化設備)は、実は飲食店の新規出店や店舗展開を行うにあたって、内装工事や厨房設備といった出店コストを対象にできる制度ですが、正直なところ、制度そのものより「書類を揃えていく過程」でつまずくケースの方が多い印象があります。
経営力向上計画 B類型の申請に当たって、今回は飲食店の出店を例にポイントをまとめてゆきます。
実際にどういう順番で何を確認していくのか、できるだけ具体的に書いてみます。
制度の基本(A・D・E類型との違いや投資利益率7%要件など)はこちらの記事で整理しているので、そちらに譲ります。
飲食店の出店で対象になり得るもの
出店にかかる費用のうち、B類型の対象として整理できそうなのは、厨房設備、内装工事・電気設備・給排水工事の一部、什器・備品あたりです。
ただ、店舗を作るための費用を丸ごと計上できるわけではありません。
あくまで「投資計画上の収益向上効果と結びつけて説明できる部分」に絞る必要があり、この線引きが最初の関門になります。
実際の進め方
順番としては、だいたい次のようになります。大きく分けると、B類型の申請は二段階です。
ひとつは投資計画の確認申請(B類型固有の手続きで、投資利益率7%要件を満たしているかどうかの確認を経済産業局から受けるもの)。
もうひとつは、その確認書が出てから行う本申請=経営力向上計画そのものの認定申請です。
以下の①〜⑥は、この二段階を実務的な作業単位に分解したもので、①〜④が確認申請までの準備、⑤が確認申請そのもの、⑥が本申請にあたります。
| ステップ | やること | フェーズ |
|---|---|---|
| ① | 経費の区分・資産の種類を税理士と確認する | 確認申請までの準備 |
| ② | 最低取得価額の基準を満たすか確認する | |
| ③ | 投資目的に必要不可欠な設備かを絞り込む | |
| ④ | 投資計画書の作成・税理士の事前確認書取得 | |
| ⑤ | 経済産業局への確認申請 | 確認申請 |
| ⑥ | 本申請(経営力向上計画の認定申請) | 本申請 |
①経費の区分・資産の種類は、税理士とよく確認する
まず前提として、対象になるのは「新品の設備を取得・製作・建設した場合」だけで、修繕は対象外です。また、対象になった設備が「機械装置」「建物附属設備」「器具備品」のどれに当たるかによって、次に出てくる金額基準も変わってきます。固定資産台帳の記載ともそのまま連動する話なので、最初の段階で税理士さんとよく確認しておくことを強くおすすめします。
②最低取得価額の基準を満たすか確認する
種類が決まったら、金額基準です。1台または1基あたりで見て、機械装置は160万円以上、器具備品は40万円以上、建物附属設備は60万円以上が目安になります(個々のケースの判断に迷う場合は、最終的には所轄の税務署に確認するのが確実です)。飲食店の設備投資は単価の小さいものが多く積み上がる構造になりがちなので、「この什器は基準に届いていない」という設備が実は結構出てきます。全部を対象に含めようとするより、基準を満たすものだけに絞って整理した方が、後の工程がスムーズです。
③投資目的に対して必要不可欠な設備かを絞り込む
基準を満たす設備がすべて対象になるわけでもありません。あくまで投資計画の目的(収益力強化)を達成するために必要不可欠な設備であり、かつその目的に必要な設備が網羅的に含まれている必要があります。「入れられるものは全部入れる」のではなく、投資計画のストーリーと整合する設備だけを選ぶ、という感覚に近いです。
④投資計画書の作成と、税理士による事前確認書の取得
設備が固まったら投資計画書を作成し、公認会計士または税理士による事前確認を受けます。ここで按分表や金額の根拠資料と、投資計画書上の数字を合わせておく必要があります。書類を作ってから数字を合わせるのではなく、数字を先に確定させてから書類に落とし込む順番にすると、後戻りが減ります。
⑤経済産業局への確認申請(投資計画の確認)
事前確認書を添えて経済産業局に申請し、投資利益率7%要件を満たしているかの確認を受けます。管轄局によっては面談を原則中止し、郵送対応のみに切り替わっている場合があるので、申請前に管轄局の最新の運用を確認しておくと二度手間を避けられます。ここで確認書(様式3)が発行されます。
⑥本申請:経営力向上計画の認定申請
⑤の確認書を添えて、経営力向上計画そのものの認定を申請します。こちらは⑤とは別の話で、経済産業部局宛ての申請については令和4年(2022年)4月より原則完全電子化されており、「経営力向上計画申請プラットフォーム」からGビズIDプライムでログインして行います。認定書もプラットフォーム上でダウンロードする形になり、郵送はされません。GビズIDプライムの取得には時間がかかるため、①の段階と並行してGビズID取得を進めておくと、全体のリードタイムを縮められます。原則として、設備の取得は計画認定後に行う必要がある点にも注意が必要です。
①〜⑤で準備する書類
ステップを追うごとに何が必要になるか、一覧にしておきます。
| 書類 | 準備するタイミング | 備考 |
|---|---|---|
| 見積書等、金額の根拠資料 | ①② | ②の金額基準チェックにも、④の投資計画書の根拠にもそのまま使う |
| 確認申請書(様式1) | ④ | 投資計画の内容を記載する本体の書類 |
| 「5.設備投資の内容」別紙 | ④ | 設備の点数が多い場合に推奨。種類別小計も付けておくと後工程がスムーズ |
| 基準への適合状況(投資利益率算定)別紙 | ④ | 投資利益率7%以上を年度別の数字で示す添付書類 |
| 投資計画書・按分表 | ④ | 税理士とすり合わせた数字を反映させておく |
| 事前確認書(様式2) | ④ | 公認会計士または税理士が発行 |
| 登記簿謄本の写し | ⑤ | 個人事業主の場合は税務申告書等で代替 |
| 貸借対照表・損益計算書 | ⑤ | 直近1年分 |
| 設備の現況・導入後の状況が分かる資料 | ⑤ | レイアウト図など、導入前後の変化が分かるもの |
| 賃貸借契約書(全頁) | ⑤ | 設備導入場所が賃貸物件の場合に必要 |
| 会社概要資料 | ⑤ | 会社案内・パンフレット等 |
| 返信用封筒(レターパック推奨) | ⑤ | 郵送申請の場合に必要。送付・返信ともレターパックだと追跡できて安心 |
| 行政書士証票の写し | ⑤ | 行政書士が代理人となる場合に必要 |
| 委任状 | ⑤ | 書類の受け取りも行政書士が代理する場合に必要 |
多店舗展開なら、1店舗目に時間をかける価値がある
年数店舗のペースで出店するようなチェーンの場合、1店舗目でこの①〜⑥の型を固めておくと、2店舗目以降は驚くほど楽になります。逆に1店舗目を急いで片付けてしまうと、店舗が増えるたびに同じ確認作業を最初からやり直す羽目になります。出店ペースが速い事業者ほど、最初の1件に時間をかける価値があると感じています。
数字はどこかでズレる、という前提で動く
これは経験則ですが、計上する設備や工事の点数が多い案件ほど、どこかで数字がズレます。見積、発注、税理士側の按分表、行政書士側の申請書類と、複数の書類を複数の人間が別々に作っている以上、完全に一致させ続けるのはほぼ不可能に近いです。端数処理のわずかな差であっても、当局側の確認では指摘対象になり得ます。「大きなズレさえなければ大丈夫」という感覚でいると、思わぬところで足を止められます。私自身、この確認を後回しにして痛い目を見たことがあるので、今は②〜④の間で必ず一度、数字の突き合わせをするようにしています。
令和8年の行政書士法改正について
令和8年1月の改正行政書士法施行で、経営力向上計画の書類作成についても無資格者による有償代行が明確に禁止されました。ここまでは知っている方も多いと思います。実務的な話をちょっと。
まず前提として、無資格のコンサルなどは、委任状の有無にかかわらずそもそも代理人にはなれません。報酬を得て書類を作成・代理する行為自体が行政書士の独占業務だからです。
行政書士が代理人になっている場合は、もう一段細かい話があります。関東経済産業局に確認したところ、不備の補正依頼については、委任状がなくても行政書士宛てにメールで届きます。一方、確認書そのものの送付を行政書士が受け取るには、委任状の添付が必要です。委任状がない場合、行政書士は補正対応まではできても、確認書自体は受け取れません。
※上記は関東経済産業局の運用に基づいています。他の管轄局では運用が異なる可能性があるので、他エリアの案件は申請前に確認してください。
確認書が出たあと
ここまでが、確認申請(①〜⑤)の実務です。確認書が出たあとの本申請(経営力向上計画の認定申請)には、事業分野ごとに提出先が変わる、電子申請が使えない分野もある、60日ルールがある、多店舗展開では店舗を増やすたびに変更申請が必要になる、といったまた別の論点があります。そちらは次の記事で改めて整理します。

