事業承継・M&A補助金も16次公募が始まりましたね。この事業は11次公募から数えると、もう6回目の公募になります。「知る人ぞ知る」補助金のままではもったいないので、あらためてこの制度についてまとめてゆきたいと思います。
特徴的なのが、本稿で紹介する「PMI推進枠」です。
事業承継・M&A補助金(PMI推進枠)16次公募のホームページは下記より↓
https://shoukei-mahojokin.go.jp/r7h/16-pmi_download/
なお、本文中の説明はあくまで概要把握を目的としたものであり、実際の申請にあたっては最新の公募要領・交付要綱・FAQ等をご確認ください。また、加点・減点や経費区分等の運用は公募回により変更される場合があります。
本記事は私個人の見解を交えず、できるだけ中立的に「制度として何が定められているか」を示すことを意図しています。そのため、実務上の運用や審査傾向などの分析については別途記事にて扱う予定です。
1. 制度の概要
事業承継・M&A補助金「PMI推進枠」は、M&A後の経営統合(Post Merger Integration=PMI)を円滑に進めるため、専門家の支援に要する費用を補助する制度です。M&Aの”成立そのもの”を支援する「専門家活用枠」とは異なり、成立後の統合プロセスに焦点を当てた制度です。
- 補助率:1/2以内
- 補助上限額:150万円(単独申請・同時申請とも。廃業・再チャレンジ枠を併用する場合、単独申請では+300万円)
- 対象経費:謝金、旅費、委託費(PMI専門家が支援した業務に限る)
- 実施時期の要件:単独申請の場合、公募申請期日時点でM&Aクロージング日から3年以内に着手する取組であること(実際の実施は、採択後の補助事業期間〈2027年1月下旬予定から14か月以内を想定〉の中で行います)
- 目的:統合によるシナジー創出、ディスシナジー解消、生産性向上、地域経済への波及
2. なぜ「PMI推進枠」が設けられたのか
この枠を語る上で、この枠はどうして設けられたのかを語らなくちゃいけないでしょうね。補助金の背景がわかれば理解も広まるといった感じで。
2-1. M&A後の”統合失敗”が現場で課題になっていた
中小企業のM&A件数は年々増加していますが、成約後の統合(PMI)でつまずく事例が多く報告されていました。買収が成立しても、次のような課題で経営が混乱するケースが後を絶ちません。
- 経営理念・文化の違いによる従業員の離職
- 会計・人事制度の統一が進まず、コスト管理が二重化
- IT・販売管理システムが統合できず、現場の混乱が長期化
- シナジーを想定した事業連携が実現しない
「M&Aは成功したのに、その後のPMIで失敗した」と評される典型例であり、結果として地域の雇用や経済にマイナスの影響を及ぼしていました。
2-2. 「成約支援だけでは不十分」という政策判断
従来の「事業承継・引継ぎ補助金」や「専門家活用枠」では、M&Aの成立(クロージング)までの支援が中心でした。しかし、成約後に適切な統合プロセスを経なければ、生産性向上が実現しない、買い手・売り手双方のメリットが消える、経営者交代後の離職・業績悪化が起こるといった「統合リスク」が指摘されていました。このため、”M&A後”の初期統合にフォーカスした専用枠として「PMI推進枠(PMI専門家活用類型)」が新設されました。
2-3. 制度設計の意図
PMI推進枠の設計には、大きく3つの意図があると捉えています。ひとつは、弁護士・会計士・診断士・金融機関・コンサルタントなど、PMI経験のある専門家をチームに組み込み、初期統合の設計・実行を支援する仕組みを制度化すること。もうひとつは、補助対象を「クロージング後、補助事業期間内に実施する統合作業」に絞り、経営体制を整えてシナジーを顕在化させる段階に資金を集中させること。そして、M&Aが地域の企業ネットワークを分断せず、承継・統合を通じて地元の雇用と生産を守ること、の3点です。
3. PMI推進枠の対象範囲
PMI(Post Merger Integration)は、M&A後の統合プロセス全体を指しますが、本制度で支援されるのは、M&A成立後に行う経営統合作業(いわゆる狭義のPMI)に限られます。プレPMI(成立前の準備)からポストPMI(統合後の継続的な改善・運用)までを含む広義のPMI全体に比べると、対象となる範囲は絞り込まれています。
| 区分 | 内容 | 補助対象 |
|---|---|---|
| プレPMI | M&A成立前の準備(DD・交渉等) | ✕(専門家活用枠で対象) |
| 狭義のPMI | M&A成立後、専門家と契約の上で実施する経営統合作業 | ◎(本枠の中心) |
| ポストPMI | 統合後の継続的な改善・運用 | ✕ |
4. 対象となる取組(例)
- PMI計画の策定(統合方針・PMO体制・ロードマップ作成)
- 経営統合支援(方針・権限体系・事業計画の統一)
- 事業統合支援(重複コスト削減、販路・仕入れ統合、シナジー創出)
- 管理機能整備(人事・給与制度統合、会計方針統一、IT・システム統合)
※成果物として、「統合方針書」「議事録・打ち合わせ資料」「PMI実施にあたって作成した資料・最終レポート」が求められます。
5. 補助対象外となる取組
- 成立前のM&A仲介・FA・デューデリジェンス(DD)費用(専門家活用枠で対象)
- 説明会の開催や個別面談、主要取引先への説明・継続的コミュニケーションなど、信頼関係構築に関わる専門家支援
- 対象士業との顧問契約の範囲内での対応等、PMIに係る支援・費用の内容が特定できないもの
- 交付決定前の契約・発注・支払い
- 現金払いやQR決済など、所定方法以外の支払い
6. 申請類型
PMI推進枠は、「単独申請」と「同時申請(専門家活用枠〔買い手支援類型〕との併願)」の2類型があります。
| 類型 | 概要 | 要件 |
|---|---|---|
| 単独申請 | M&Aが成立済み(または交付申請時点で最終契約締結)で、PMIを実施 | 公募申請期日時点でクロージング日から3年以内に着手/交付申請時点で最終契約締結 |
| 同時申請 | 専門家活用枠(買い手支援類型)と同時に申請 | 交付申請時点で対象M&Aが最終契約締結。補助事業期間内にクロージングしなかった場合、PMI費用は補助対象外 |
7. 申請時に必要な主な書類
- 履歴事項全部証明書(法人)
- 直近3期分の決算書
- M&Aの基本合意書(公募申請時)又は最終契約書(交付申請時)
- デューデリジェンス実施を証する書類(該当する場合。契約書・報告書等)
- 専門家との委託契約書案または見積書
- PMI計画(統合スケジュール、支援内容、専門家の役割)
- 加点書類(該当する場合)
8. 審査の着眼点
審査は、事務局および外部有識者で構成される審査委員会によって書面審査方式で行われます。主な評価観点は以下の通りです。
- PMIの目的・必要性:統合の意義と狙う効果が明確か
- 集中実施計画の妥当性:PMI集中実施期の計画が補助事業期間内に適切に組まれているか
- シナジー効果と地域波及性:統合による経済効果・地域への貢献
- 成長見込み:統合後の事業拡大や収益性の見通し
- 財務健全性:申請者の経営状況・継続性
9. 加点・減点項目
加点される取組(任意提出)
| 区分 | 提出書類の例 |
|---|---|
| 会計要領・指針の適用 | チェックリスト(顧問会計専門家印のあるもの) |
| 各種計画の認定 | 経営力向上計画、経営革新計画、先端設備等導入計画等の認定書 |
| 地域未来牽引企業 | 選定証 |
| 小規模事業者等 | 直近期の法人事業概況説明書、又は所得税青色申告決算書 |
| (連携)事業継続力強化計画 | 認定書および申請書類 |
| ワーク・ライフ・バランス推進 | 基準適合一般事業主認定通知書(えるぼし・くるみん等)の写し |
| 健康経営優良法人 | 認定証 |
| サイバーセキュリティお助け隊 | 利用が確認できる書類(申込書・請求書等) |
| 賃上げ要件 | 賃金引上げ計画の誓約書、従業員への賃金引上げ計画の表明書 |
| デュー・ディリジェンス(DD)実施 | DD実施を証する書類および成果物(DDレポート等) |
| 米国の追加関税措置による影響 | 影響を具体的に記載 |
減点対象
- 過去18か月以内に中小企業庁所管補助金で賃上げ加点を申請し、未達であった場合(正当な理由がない場合、大幅に減点)
10. 実績報告と成果物
補助事業完了後、速やかに実績報告書を提出します。提出書類は基本的に以下の通りです。
- PMIの業務に関連する成果物(統合方針書、打ち合わせ議事録・使用資料、実施にあたって作成した資料と最終レポート)
- 専門家との業務委託契約書等
- PMI受託業務完了報告書
提出期限や、実績報告後の事業化状況報告の詳細については、採択後の交付規程・手引書で確定しますので、そちらでご確認ください。
11. よくある誤解・注意点
- 「契約日を補助事業期間に合わせるだけ」は無効(覚書等で日付を調整しても、原則、補助事業期間内の最終契約とはみなされません)
- 相見積りは原則必須(不要となる条件は【公募要領】(別紙)補助対象経費に定められている場合のみ)
- 現金払いや分割払いは不可(振込またはクレジット1回払いのみ)
- 専門家活用枠との同時申請時は、経費の重複計上禁止

