省力化補助金(一般型)は、令和6年度からの制度開始以降、今回で5回目の募集を迎えました。
比較的短い期間で募集が重ねられている点からも、国として重点的に取り組んでいる政策分野であることがうかがえます。
本補助金はその名称のとおり、人手不足に直面する中小企業等が、デジタル技術等を活用して業務の省力化と生産性向上を図り、付加価値の創出と賃上げにつなげることを目的としています。
いわば、「稼ぐ力」と「賃上げ」の好循環を実現するための制度と位置づけられています。
こうした背景もあり、本補助金は比較的短いスパンで募集が行われています。
令和7年12月19日に公表された5次募集についても、制度の基本的な枠組みはこれまでと大きく変わっていませんが、細かな点では留意すべき変更も見られます。
本記事では、これまでの募集内容を簡単に振り返りつつ、4次募集からの主な変更点と、結論として「どのような取り組みであれば申請の検討対象となり得るのか」を、実務的な観点から簡潔に整理します。
5次募集の申請をお考えの方へ
結論から申し上げますと、多くの皆様事業者様は、申請をご検討してよい、個人的に「キタゴウの推し補助金」ではございますが、一方で、採択や補助金受給にあたっての判断ポイント(ハードル)は、これまで以上に明確化されています。
第5回公募は、「誰でも申請しやすい制度」というより、「満たすべき条件がはっきり示された制度」と捉えるのが適切でしょう。
なぜ「多くの事業者が検討対象」と言えるのか
第5回公募では、次のような点から、制度の入口自体は比較的広く設計されています。
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補助率のシンプル化
第4回まで存在した「1,500万円超部分の補助率引き下げ」が撤廃され、
投資規模に左右されにくい制度設計となりました。 -
幅広い補助上限額
従業員数に応じて、750万円から最大1億円(特例適用時)まで設定されており、
小規模事業者から一定規模の企業まで対応しています。 -
政策的配慮の追加
米国の追加関税措置の影響を受ける事業者について、
サプライチェーンの省力化に資する取組は審査上考慮されることが明示されました。
ただし、判断ポイントは非常に明確
一方で、第5回公募では、申請者に求められる覚悟や説明責任が明確化されています。
特に重要となるのは、次の点です。
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「1人当たり」の賃上げへのコミット
第5回公募では、「1人当たり給与支給総額を年平均成長率(CAGR)+3.5%以上」増加させることが必須要件となり、
単なる事業規模拡大ではなく、従業員一人ひとりへの還元が求められます。 -
オーダーメイド型省力化投資であること
既製品の単純導入ではなく、自社業務に合わせた設計や構成が前提となります。 -
口頭審査への対応力
口頭審査時間が約30分に延長され、代表者自身による説明力が重要になります。 -
導入後の運用責任
システム構築費を計上する場合、3~5年間の保守・メンテナンス契約が必須となり、
導入後の継続的な運用体制も評価対象となります。 -
未達時の返還リスク
賃上げや最低賃金維持が未達となった場合、補助金の返還が求められる可能性があります。
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検討にあたっての最終チェック
第5回公募を検討する際は、少なくとも次の3点にYESと言えるかが一つの分岐点となります。
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実効性
この投資で、労働生産性を本当に年平均4%以上向上させられるか。 -
継続性
3~5年間の運用・保守体制と、それを支える財務基盤があるか。 -
還元
生産性向上の成果を、従業員一人ひとりへの賃上げとして還元する覚悟があるか。
5次募集の概要
スケジュール
省力化補助金 一般型の第5次募集について、現時点で公表されているスケジュールは以下のとおりです。
| 公募開始日 | 申請受付開始日 | 公募締切日 | 採択発表日 | |
| 第5回 | 2025年12月19日(金) | 2026年2月上旬(予定) | 2026年2月下旬(予定) | 未定(後日公表) |
2月下旬の締切予定ですね。詳細はまだ予定は未定のようです。
補助上限額(事業者規模別)
| 従業員数 | 補助上限額(通常枠) | 補助上限額(大幅賃上げ特例) |
|---|---|---|
| 5人以下 | 750万円 | 1,000万円 |
| 6~20人 | 1,500万円 | 2,000万円 |
| 21~50人 | 3,000万円 | 4,000万円 |
| 51~100人 | 5,000万円 | 6,500万円 |
| 101人以上 | 8,000万円 | 1億円 |
※「大幅賃上げ特例」を適用する場合は、別途定められた賃上げ要件を満たす必要があります。
補助率
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中小企業:
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原則 1/2
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大幅賃上げ特例適用時:2/3
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小規模事業者・再生事業者:
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原則 2/3
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補助率の引き下げが撤廃されたことで、比較的大きな投資額を検討している事業者でも、制度設計上の不利は小さくなっているように思います。
第4回公募から第5回公募にかけての主な変更点
① 補助率の変更(段階的引き下げの撤廃)
第4回公募
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補助金額が1,500万円を超える部分については、
補助率が 1/3 に引き下げられていました。
第5回公募
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金額による補助率の段階的引き下げは撤廃されています。
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補助率は以下のとおり、区分ごとに一律適用されます。
| 区分 | 補助率 |
|---|---|
| 中小企業 | 1/2(大幅賃上げ特例適用時:2/3) |
| 小規模事業者・再生事業者 | 2/3 |
※投資額の大小による補助率上の不利は解消された形となっています。
② 基本要件(賃上げ要件)の算出基準の見直し
第5回公募では、賃上げ要件の考え方が、「総額」よりも「1人当たり」を重視する形に変更されています。
第4回公募
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以下のいずれかを満たす計画が要件でした
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給与支給総額:年平均 +2.0%以上
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1人当たり給与支給総額:都道府県別最低賃金の直近5年間平均成長率以上
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第5回公募
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1人当たり給与支給総額を、年平均成長率 +3.5%以上増加させることが必須要件となっています。
大幅賃上げ特例
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第4回:給与支給総額 +6.0%以上
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第5回:1人当たり給与支給総額 +6.0%以上
これまでの公募では、「給与支給総額が増加していれば要件を満たす」といった、比較的幅のある考え方も認められていました。
一方、第5回公募からは、「1人当たり給与支給総額」の増加を基準とする要件に一本化され、従業員数の増減に左右されにくい、より実質的な賃上げ計画が求められるようになっています。
例えるなら、
これまでは「クラス全体の平均点が上がれば合格」とされていたものが、「在籍人数に関係なく、1人あたりの平均点が一定以上伸びているか」を見る仕組みに変わった、というイメージです。
③ 米国の追加関税措置への対応(審査項目の追加)
第5回公募では、国際情勢を踏まえた新たな観点が審査に加えられています。
これはほかの補助金(もの補助など)では既に実装されていた考慮(審査)項目で、ものづくり補助金では採択結果を見ると大きな意味をなしていました。
ものづくり補助金の19次と20次の採択発表から見る傾向など・・(note記事へリンクします)https://note.com/kitagoh1982/n/n0336357d38c5
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関税影響事業者への配慮
米国の追加関税措置により大きな影響を受けている事業者について、
サプライチェーンの省力化に資する取組である場合は、審査上考慮されます。 -
専用様式の追加
上記に該当する事業者向けに、
【指定様式】事業計画書が新たに追加されています。
④ 口頭審査時間の延長
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第4回:1事業者あたり15分程度
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第5回:1事業者あたり30分程度
⑤ 保守・メンテナンス契約の義務化
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第4回:
外部SIerを活用する場合、SIer側に保守体制が求められていました。 -
第5回:
システム構築費を計上する場合、発注先と3~5年間の保守・メンテナンス契約を締結することが明確に義務化されています。
※実績報告時に確認対象となります。
⑥ その他の変更・追加事項
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提出書類の追加
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「1人当たり給与支給総額の確認書」が指定様式として追加
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サイバーセキュリティ対応の明確化
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審査項目において、サイバーセキュリティ対策の実施状況が判断材料として明記
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補助対象外経費の明確化
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将来的な外販(対外販売)を前提とした設備・システム開発は補助対象外であることが明文化
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これまで(1~3回)の採択率などのまとめ

省力化補助金(一般型)は、過去3回の採択結果を見ると、採択率はおおむね60%台後半で推移しており、数字上は「3件に2件程度が採択されている」補助金といえます。
他の補助金と比較すると、採択率自体は比較的高い水準にありますが、
その一方で、要件や審査ポイントを十分に満たしていない申請は、特別な理由がなくとも不採択となっています。
いわば、「通りやすそうに見えるが、基準を外れると普通に落ちる」タイプの補助金であり、
採択率の数字だけを根拠に、安易に判断することはおすすめできません。
なお、この点については、過去の採択結果をもとにした考察を、以下のnote記事でも整理しています。
ご関心のある方は、あわせてご覧ください。
第5回公募が向いている事業者・慎重に検討すべき事業者
第5回公募は、書類の体裁さえ整えれば通るような補助金ではありません。
現場で何が起きていて、何を変えたいのかを、実際の言葉で説明できるかどうかが、そのまま結果に出ます。
正直なところ、これまでの公募対応を通じて、
通る申請と、途中で無理が出る申請には、かなり分かりやすい差があります。
比較的、相性が良いと感じる事業者
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「人が足りない」ではなく、
「この工程で人が詰まって、残業が発生している」と話が具体的 -
設備の話より先に、
「導入したあと、現場がちゃんと回るか」を気にしている -
賃上げ要件について、
「数字はクリアできるけど、本当に払えるかは一度考えさせてほしい」と言える -
口頭審査を想定したときに、
「社長自身が説明しないと無理だな」と最初から腹をくくっている
慎重に検討した方がいいと感じるケース
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話の入り口が、
「何か使える補助金ない?」 -
賃上げや返還の話をすると、
「そこまで厳しいとは思ってなかった」と空気が変わる -
運用や保守の話になると、
「そこはベンダー任せで…」と一気に温度が下がる -
採択後の話をすると、
「まずは通ってから考えたい」と言葉を濁す
ここが分かれ目だと思っています
第5回公募は、
「補助金があるから何かやる」人ではなく、
「やらないと回らなくなってきたから、補助金も含めて考える」人向けです。
設備を入れること自体より、
入れたあとに責任を持ち続けられるかが問われます。
ご相談について
第5回公募については、
「うちの場合、そもそも対象になりそうか」
「やりたい省力化が、制度の趣旨からズレていないか」
といった最初の段階でのご相談を多くいただいています。
まだ
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申請するかどうか決めていない
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設備やシステムの内容が固まっていない
という状態でも構いません。
一方で、
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公募要領の読み上げ
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採択の可否を断定するご相談
については、お答えできない場合があります。
「この補助金、うちには合いそうか?」
その確認からで大丈夫です。
ご関心のある方は、下記お問い合わせフォームよりご連絡ください。

