はじめに
ここでは、補助金における「採択辞退」や「事故・廃止」について解説します。
採択辞退とは、採択発表後に補助金交付候補者として選ばれたものの、「交付決定前」に補助事業の実施を辞退することを指します。
一方、事故・廃止とは、「交付決定後」に補助事業の実施を中止したり、事業そのものを廃止したりすることを指します。
交付決定を受けているかいないかのタイミングで、名称は違いますし、手続きも、そしてその「重さ」も異なります。
2025年度は「事業再構築補助金」の終了、「新事業進出補助金」の新設、「省力化補助金」や「ものづくり補助金」の再編が進んでいます。
ここで一度、制度横断的に整理しておきましょう。
補助金の採択辞退とは
補助金の採択辞退とは、採択を受けた後に交付決定を受けることなく、補助事業の実施を断念する決断を指します。
実は交付決定後の事故や中止よりも、近年は採択辞退が多くなっています。
これまで採択辞退はあまり一般的ではありませんでした。しかし、令和5年補正予算まで実施された「事業再構築補助金」では、こうした辞退が頻発するようになりました。その背景には、以下のような理由があります。
1. 他の補助金の併願申請による採択辞退
近年、複数の補助金を併願する事業者が増加しています。
背景には、補助金の採択率低下や、同一の設備・システム導入を複数の目的(生産性向上・省力化・販路開拓など)で実施するケースが増えていることがあります。
併願の具体例
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「省力化補助金(一般型)」と「ものづくり補助金」
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「小規模事業者持続化補助金」と「ものづくり補助金」
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「都道府県・市町村補助金」と「国の補助金」
いずれも、設備や事業内容の一部が重複する申請となることが多く、採択後に次のような重複補助の禁止という問題が生じることがあります。
補助金制度では、「同一経費の二重補助」が原則禁止されています。
そのため、複数の申請がすべて採択された場合、どちらか一方の交付申請を辞退する必要が生じます。
特に、設備導入計画が共通している場合は、事務局からの確認の段階で指摘されることもあります。
2. 経営状況や社会情勢の変化
補助金申請から採択発表までには2~3か月以上かかることが一般的です。その間に以下のような変化が生じることがあります:
- 物価の上昇:計画当初よりコストが増加し、補助金を利用しても事業を実施するのが難しくなる。
- 経営状況の悪化:売上減少や資金繰りの悪化により、補助金を活用する余力がなくなる。
- 社会的な変化:特段の政策変更や市場環境の変化により、事業の実行が困難になる。
これらの要因が重なり、事業を進めることができなくなる場合もあります。
過去の典型例:事業再構築補助金での交付申請長期化
事業再構築補助金では、交付申請の手続きが長期化し、その結果、以下の問題が発生していました:
- 事業の実施が不可能になる:事業計画の実行が期間的な制約や品質維持の観点から困難になる。
- 事務負担の増加:度重なる基準変更や要件の追加に伴い、追加書類の提出や差戻しが発生し、事務的な負担が増える。
こうした状況により、当初の事業計画通りに事業を進めることができず、やむを得ず辞退するケースが多く見られます。
採択辞退は、申請者にとっても事務局にとっても想定外の事態であることが多いですが、申請後の長期的なプロセスや予期せぬ社会・経済的な変化がその要因となっています。特に、事業再構築補助金のような大規模な補助金では、こうした辞退の増加が顕著に見られていました。
採択辞退の手続き方法(2025年版・全補助金共通)
採択辞退の手続きは、補助金の種類により多少の違いがありますが、共通する流れと作法があります。
ここでは、「ものづくり補助金」「省力化補助金」「小規模事業者持続化補助金」など、主要制度に共通する実務手順を整理します。
① 手続きの基本的な流れ
採択辞退は、原則として「jGrants(Jグランツ)」上で申請を行います。
交付申請前であれば、事務局への「辞退連絡」を経て、申請データを正式に取り下げる形になります。
手順は以下の通りです。
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まず、事務局へ電話またはメールで相談
┗ 申請番号を伝え、「採択辞退を検討している」と申し出る。 -
事務局からの指示に従い、辞退理由書の提出やJグランツでの操作を実施。
-
事務局から「受理」の確認メールを受け取ったら、完了です。(連絡がこないこともあります。その場合はJグランツからステータスを確認してください)
※辞退が交付決定後の場合は「中止(廃止)申請」に切り替わります。
② 提出書類と必要情報
事前に以下の情報を整理しておくとスムーズです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請番号 | R+数字・アルファベット(例:R5M12345)※桁数は各補助金ごと異なる場合もあります。(だいたい11桁) |
| 申請補助金名 | 例:省力化補助金(一般型) |
| 辞退理由 | 簡潔・具体的に(例:他補助金との併願採択による重複回避) |
| 添付資料 | 事務局の指示に従ってください。 |
③ 事務局への連絡が“最初の一歩”
採択辞退の場面で最も重要なのは、「まず連絡」です。
多くの事務局では、電話連絡を受けた時点で内部メモを作成し、
その後の手続きをスムーズに進めてくれます。
特に、
-
jGrantsのシステムエラーで辞退操作ができない
-
様式がどこにあるかわからない
といった場合も、事務局側で個別対応してくれるケースがあります。
📞 「まず相談」こそが補助金実務の基本作法です。
独断で辞退せず、かならず公式窓口に一報を入れましょう。
④ 過去の参考:事業再構築補助金におけるマニュアル化
採択辞退が制度的に明文化されたのは、令和4〜5年度に実施された「事業再構築補助金」がきっかけでした。
当時、採択辞退が多発したことから、公式マニュアル(参考様式1付き)が公開され、以降の補助金制度でも同様の手順が踏襲されています。
現在の「省力化補助金」や「ものづくり補助金」でも、
同様の考え方(jGrantsでの取り下げ+理由提出+事務局連絡)が採用されています。
ここでは、採択辞退が多いとされる「事業再構築補助金」における採択辞退の手続き方法について説明します。
事業再構築補助金では、採択辞退が頻発しているためか、「採択辞退のマニュアル」が公式に公開されています。(※事業再構築補助金公式ホームページの「交付申請」のページ最下部に掲載されています。)このマニュアルの存在自体が、採択辞退の多さを物語っています。

(事業再構築補助金ホームページ⇒交付申請のページの最下部)
補助金の「事故」とは
「事故」とは、事業者の責任によらない不可抗力(災害・火災など)によって補助事業の遂行が困難になった場合を指します。
このような場合は、速やかに事務局へ報告し、指定の様式を提出する必要があります。
ものづくり補助金の場合
「補助事業の手引き」では、以下のように定められています。
- 「様式第4 事故等報告書」を使用し、電子メールで提出。
- 事象が発生した時点で速やかに報告。
- 災害等の被害により事業が遂行できないと見込まれる場合、事務局の指示を受けて計画変更または中止・廃止手続きに移行。
- 補助金等適正化法に基づく善管注意義務(善良な管理者の注意)を負い、設備の損害時には保険加入(付保割合50%以上)が推奨されています。
この「事故報告」の考え方は、他の補助金でも同様に適用されています。
災害や不可抗力による遅延・損害が発生した場合は、すぐに事務局へ報告・相談してください。
補助金の「中止・廃止」とは
「中止」または「廃止」とは、交付決定後に事業を断念する場合を指し、事前に事務局の承認を受けることが必須です。
ものづくり補助金の場合
- 計画変更は「様式第3-1 補助事業計画変更承認申請書」
- 中止・廃止は「様式第3-2 補助事業中止(廃止)承認申請書」
- いずれもjGrants上で提出し、事後承認は不可。
- みなし大企業化や補助事業者要件の喪失など、適格性を失った場合は、交付決定取消し・返還命令の対象になります。
この仕組みも、ほかの補助金に共通しています。
例えば「省力化補助金」でも同様に、交付決定後にやむを得ず中止する場合は、必ず「廃止申請」を行い承認を受ける必要があります。
💡補助金制度ごとに細部は異なりますが、
「辞退・事故・中止(廃止)」の基本構造は全国の補助金で共通です。
ものづくり補助金の手引きに沿って理解しておけば、他の補助金でもほぼ同じ流れで対応できます。
おまけ
さて、「採択辞退」という言葉に耳慣れない者もいるだろう。だが、この一言に込められた重さを甘く見てはいけない。補助金を申請し、採択を勝ち取った者が、栄光の座を自ら手放す。そんな決断を下さねばならない状況が、この国では確かに存在している。そして、特に「事業再構築補助金」では、その決断が珍しいものではなくなってきたのだ。
採択辞退の手続きは、冷たく淡々としたルールのもとに進められる。あたかも機械が人間を裁くような様相だ。なぜなら、事業再構築補助金の公式サイトには「採択辞退のマニュアル」なるものが堂々と公開されている。それは、辞退が「想定外」ではなく、「日常茶飯事」と化している現実を物語る。心中を察してくれる温かさは、どこにもない―――――
(引用:民明書房刊 『補助金BATTLE ROYAL』)

